これからも、毎年ひとつでも桃を味わえたらそれだけで幸せ。
そう感じたのは、前の園主だったおじいちゃんが
「畑をやめる。もう全部抜いてしまう」と言った日のことです。
自分に桃畑なんて続けられるはずがない。
最初は、誰か代わりに引き継いでくれる人を探していました。
けれど気がつくと、私はひとり畑に立っていました。
最初の年、畑の半分には農薬を、もう半分には農薬を使わず、
自分なりに比較してみようと思いました。
けれど、農薬を背負って散布した後、 体にじんましんが出てしまったのです。
「自分がじんましんになった原因を、
食べものに撒くなんて自分にはできない。」
そう思い、それきり農薬をやめました。
その年は、カブトムシやクマンバチがたくさんやってきて、
桃の実はどんどん食べられ、ほとんど収穫できませんでした。

それでもあきらめきれず続けていたときに出会ったのが、
“自然の流れを大切にする農法”・・・「道法スタイル」でした。
ご指導をいただきながら剪定を学び、
硫黄液や銀杏液などを使って 自然なかたちでの防除を続けました。
桃が“自分で自分を守る”力を発揮できるように、
ホルモンの流れを整える剪定を重ねていくと、
翌年には木々がたわわに実をつけてくれました。

あのときの驚きと喜びは、
今でもはっきり覚えています。
当時は販売の仕組みもありませんでした。
「せっかく実ってくれた桃を無駄にはできない」
その思いでジャムにしたのが、
のちに インターナショナルテイストインスティテュートで
優秀味覚賞をいただいた黄金桃ジャム のはじまりです。

桃が私に教えてくれたことは、数えきれません。
これからも、この畑と、桃と、ともに生きていきたい。
その想いだけは、ずっと変わりません。
