これからも毎年ひとつでも食べられたら、それだけで幸せ。
そんな想いが胸に浮かんだのは、前の園主だったおじいちゃんが
「畑をやめる。全部抜いてしまう」と言ったときのことでした。
自分に桃畑なんてできるわけがない。
最初は、誰か代わりにやってくれる人を探していました。
けれど、気づいたら私が畑に立っていました。
最初の年は、畑の半分に農薬をまき、もう半分は無農薬で育てて比べてみようと思いました。
ところが、農薬を背負って散布したあと、体にじんましんが出てしまったのです。
「こんなものを食べものに撒くなんて、自分にはできない」
そう思い、それきり農薬をやめました。
最初の年は、カブトムシやクマンバチがやってきて、
桃の実はどんどん食べられ、ほとんど収穫できませんでした。
それでもあきらめきれず、出会ったのが「道法スタイル」という自然の流れを大切にする農法です。
ご指導を受けながら剪定を学び、硫黄液や銀杏液などを使って自然なかたちで防除を行いました。
桃が“自分で自分を守る”力を引き出すように、ホルモンの流れを整える剪定を重ねました。
すると、翌年にはたわわに実がなったのです。
あまりの実りに、うれしさより驚きの方が大きかったことを覚えています。
販売の仕組みもなかったので、とにかく「もったいない」と思ってジャムにしました。
そうして生まれたのが、2025年にインターナショナルテイストインスティテュートで
優秀味覚賞をいただいた、黄金桃ジャムです。
桃が教えてくれたことは、数えきれません。
これからも、この畑と、桃と、ともに生きていきたいと思っています。